ガンダム歴代主題歌を音楽ジャンルから紐解く #04 機動戦士ガンダム 逆襲のシャアcolmun

80年代シンセポップとSF映画音楽の融合。「BEYOND THE TIME」が描いた宇宙世紀の終着点

1988年。
『機動戦士ガンダム』から始まった宇宙世紀の物語は、劇場作品『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』へと辿り着きます。

アムロ・レイとシャア・アズナブル。

一年戦争から続いてきた二人の因縁に、ひとつの決着をつける作品です。
そして、この作品を音楽の面から語るうえで欠かせないのが、TM NETWORKによる主題歌、

「BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~」
です。

初代ガンダムではアニメソング。
Ζでは80年代ポップスと洋楽。
ΖΖでは80年代J-Pop。

そして逆襲のシャアでは、シンセポップ × ニューウェーブ × ロック × SF映画的サウンド
という、1980年代後半ならではの音楽へと進化していきます。

今回は「BEYOND THE TIME」を軸に、逆襲のシャアがどのように80年代の音楽とガンダムを結びつけたのかを見ていきます。


1988年。80年代ポップスが成熟した時代

1988年の日本の音楽シーンは、80年代前半とはかなり違った表情を見せていました。
シンセサイザーやシーケンサーといった電子楽器は、すでにポップスの中で珍しい存在ではありません。

ニューウェーブやテクノポップの影響も広がり、ロックと電子音楽、ポップスの境界はますます曖昧になっていました。
そんな時代に登場した『逆襲のシャア』。
作品自体も、それまでのテレビシリーズとは違います。
劇場用作品として制作され、宇宙世紀の物語を大きなスケールで描く。
当然、音楽にも映画作品としてのスケール感が求められます。
そこに選ばれたのが、当時すでに日本を代表する音楽ユニットとなっていたTM NETWORKでした。


TM NETWORKがガンダムを歌う

「BEYOND THE TIME」の作曲・編曲は小室哲哉。
作詞は小室みつ子。
そして歌唱はTM NETWORK。

TM NETWORKは1980年代を代表する音楽ユニットのひとつです。シンセサイザーを中心とした電子的なサウンドとロックのエネルギーを融合させたスタイルは、当時の日本のポップスの中でも非常に特徴的でした。

ジャンルとして一言で分類するなら難しい楽曲ですが、

シンセポップ / ニューウェーブ / ポップロック / J-Pop

といった複数の要素を持っています。

ここが、ΖΖまでの主題歌との大きな違いです。
「BEYOND THE TIME」は、いわゆる「ロボットアニメの主題歌らしい曲」ではありません。

ガンダムという言葉を連呼するわけでもありません。モビルスーツの名前を歌うわけでもありません。
それでも、聴けば『逆襲のシャア』の世界を強く連想させる。
この距離感が非常に面白いところです。


「BEYOND THE TIME」──ガンダムを歌わないガンダムソング

「BEYOND THE TIME」の大きな特徴は、歌詞の中でガンダムそのものを直接説明しないことです。

そこにあるのは、

時間。

記憶。

孤独。

愛。

そして、人と人との繋がり。
これは『逆襲のシャア』が描いているテーマそのものでもあります。

アムロとシャア。

ニュータイプ。

人類の未来。

地球と宇宙。

そして、何度も繰り返される人類の歴史。
「BEYOND THE TIME」は、こうしたテーマを直接的な説明ではなく、抽象的な言葉とメロディによって表現しています。
だからこそ、作品を知らない状態で聴いても一つのポップソングとして成立する。

一方で映画を見た後に聴くと、まったく違った意味を持って聞こえてくる。
この二重構造が、この曲の大きな魅力です。


シンセサイザーが作る「宇宙」

楽曲を聴いて最初に感じるのが、電子的なサウンドです。
シンセサイザーによって作られる広がりのある音。
そして、その上に重なるリズムとボーカル。

これは1980年代後半のポップスらしいサウンドでありながら、同時に非常にSF的でもあります。

宇宙。

未来。

人工物。

時間。

そうしたイメージを、電子音そのものが自然に想起させます。

初代ガンダムの「翔べ!ガンダム」にあったブラス主体のヒーローサウンドとは、まったく違う世界です。

ここまで来ると、「ガンダムの主題歌が時代の音楽を取り入れている」というより、「その時代の最新ポップスがガンダムの世界を表現している」という感覚に近くなります。


「アニメソング」から「映画主題歌」へ

ここまでのシリーズを振り返ってみましょう。

初代『機動戦士ガンダム』では、

「翔べ!ガンダム」

という非常に分かりやすいアニメソングからスタートしました。

Ζでは、

「Ζ・刻をこえて」

によって洋楽ポップスとの接続が生まれます。

ΖΖでは、

「アニメじゃない」

というタイトルそのものが、アニメソングの枠を意識的に飛び越えようとしていました。

そして逆襲のシャア。

ここで登場するのが、

「BEYOND THE TIME」

です。

もはやタイトルにも「ガンダム」はありません。

しかし、この曲は現在でもガンダムを代表する楽曲のひとつとして知られています。

つまりガンダムの主題歌は、作品を説明する歌から、作品の世界観を共有する歌へと変化してきたとも考えられます。


1980年代の「都会的な音」がガンダムに入ってくる

「BEYOND THE TIME」を聴いていると、初代ガンダムとは違うもう一つの要素を感じます。
それが都会的な雰囲気です。
1980年代後半のポップスには、電子楽器を使った洗練されたサウンドが増えていました。
それまでの歌謡曲的な温かさとは異なる、少し無機質でクールな音。

しかし、その無機質さの中に人間的なメロディが存在する。

この組み合わせは、TM NETWORKの音楽性とも非常に相性が良いものでした。そしてそれは、逆襲のシャアという作品にもよく合っています。

巨大な宇宙船。

モビルスーツ。

スペースコロニー。

ニュータイプ。

そして、人類の未来を巡る思想。
『逆襲のシャア』は、それまでのガンダム以上に「SF映画」としての側面が強くなっています。
だからこそ、1980年代の電子音楽を取り入れたTM NETWORKのサウンドが非常に自然に作品へ溶け込んでいます。


それでも「人間の歌」になっている

しかし、「BEYOND THE TIME」は単なるSFサウンドではありません。
最終的に中心にあるのは、人間の感情です。

アムロとシャア。二人の長い因縁。

そして、その二人を取り巻く人々。

どれだけ宇宙が広がっても、どれだけ技術が進歩しても、最後に描かれるのは人間同士の理解やすれ違いです。

だからこそ、電子音を多用した楽曲でありながら、どこか切なく、温かい。
この**「未来的なのに人間的」**という感覚が、「BEYOND THE TIME」の魅力なのかもしれません。


映画の最後に流れる「BEYOND THE TIME」

そして、この曲が最も強く印象に残るのが、映画のエンディングです。
長く続いた宇宙世紀の物語。

アムロとシャアの戦い。

その結末を見届けた後に流れる「BEYOND THE TIME」。
ここで重要なのは、曲が戦闘を盛り上げるためのものではないということです。
戦闘が終わった後。
物語を見終えた観客に対して、もう一度作品のテーマを投げかける。
だからこそ、この曲には独特の余韻があります。

映画を終わらせるための曲でありながら、物語を終わらせない。

そんな不思議な役割を持っています。


初代から逆襲のシャアへ

ここまで4作品を並べてみると、かなり面白い変化が見えてきます。

作品年代音楽的な特徴
機動戦士ガンダム1979アニメソング / ポップス / 歌謡ロック
機動戦士Ζガンダム198580年代ポップス / 洋楽 / シンセサウンド
機動戦士ガンダムΖΖ198680年代J-Pop / ポップロック / 歌謡ポップス
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア1988シンセポップ / ニューウェーブ / ポップロック

わずか9年。
それだけの時間で、ガンダムの主題歌はここまで変化しました。
そして、その変化はそのまま日本の音楽シーンの変化でもあります。


「BEYOND THE TIME」が今も特別な理由

「BEYOND THE TIME」が現在まで長く聴かれ続けている理由は、単純に「有名なガンダムソングだから」だけではないでしょう。

この曲は、

1980年代の音楽宇宙世紀というSF世界を結びつけながら、さらにアムロとシャアという人間の物語まで一つの楽曲に閉じ込めています。

だから、映画を知らなくても聴ける。
ガンダムを知らなくても曲として成立する。
そしてガンダムを知っていれば、さらに深く聴こえる。
この普遍性こそが、「BEYOND THE TIME」が長く愛されている理由のひとつなのかもしれません。


ガンダムの音楽は「時代」を映している

初代ガンダムから逆襲のシャアまで。

ガンダムの主題歌を順番に聴いてみると、作品だけではなく日本の音楽そのものの変化が見えてきます。

1979年。
アニメソングと歌謡曲。

1985年。
洋楽を取り込んだ80年代ポップス。

1986年。
J-Popの華やかさ。

そして1988年。
シンセサイザーとニューウェーブを取り込んだSFポップス。

ガンダムは、その時代の音を取り込みながら進化してきました。
そして次の時代、ガンダムの音楽はさらに大きく変わっていきます。


次回予告|機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争

1989年。
宇宙世紀の物語は、再び新しい方向へ進みます。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』。

ここで描かれるのは、巨大な戦争の英雄ではなく、少年の視点から見た小さな戦争です。
そして、その音楽もまた、それまでのガンダムとは異なる表情を見せます。
「いつか空に届いて」
ガンダムの音楽は、さらに「アニメソング」という枠を超えていくことになります。

次回は『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を取り上げ、その音楽性を紐解きます。

罪プラの逆襲、開幕