ガンダム歴代主題歌を音楽ジャンルから紐解く #06 機動戦士ガンダムF91colmun

「ETERNAL WIND」が変えたガンダムソング──80年代ポップスから90年代J-POPへ
1991年。
『機動戦士ガンダムF91』が劇場公開されました。
一年戦争から始まった宇宙世紀の物語は、新たな時代へ。舞台は『逆襲のシャア』から30年以上後の宇宙世紀0123。登場するモビルスーツも、物語を取り巻く世界も、それまでのガンダムとは大きく変化しています。
そして音楽もまた、新しい時代へと向かっていました。
その象徴となったのが、森口博子が歌う「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」です。
この曲は、これまでのガンダム主題歌とは少し違います。
ガンダムの名前を前面に出すわけでもない。モビルスーツの強さを歌うわけでもない。激しいロックでもありません。
それなのに、映画を見終えた後には強烈な余韻を残します。
今回は「ETERNAL WIND」を中心に、ガンダムソングが80年代から90年代へ移り変わる瞬間を見ていきましょう。
1991年。音楽の時代が変わり始める
1991年という年は、日本の音楽シーンにとってひとつの境目でした。
1980年代に隆盛を極めたシンセサイザー中心のポップス。
華やかな打ち込みサウンド。
ニューウェーブ。
そしてバブル期の洗練された都会的なポップス。
そうした80年代の空気が残る一方で、日本の音楽シーンは徐々に90年代へ向かっていました。
そんな時代に登場したF91。
『逆襲のシャア』からわずか3年ですが、音楽の印象はかなり違います。
「BEYOND THE TIME」が持っていた電子的で未来的なサウンドに対して、「ETERNAL WIND」はもっと人間の声とメロディを中心にした楽曲です。
ジャンルとして分類するなら、J-POP、ポップ・バラード、ニューミュージックといった言葉が近いでしょう。
ただし、これも一つのジャンルだけでは説明しきれません。
森口博子、再びガンダムへ
F91で歌うのは森口博子。
実は彼女にとってガンダムは初めてではありません。
1985年、『機動戦士Ζガンダム』の後期オープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」でデビューしています。
つまりF91は、森口博子にとってガンダムとの再会でもありました。
そして「ETERNAL WIND」は、森口博子自身にとっても大きな転機となった楽曲です。
ガンダムの主題歌が、アニメファンだけではなく、一般の音楽リスナーにも広く届いた代表的な一曲となりました。
「ETERNAL WIND」はロボットソングではない
この曲を聴いて最初に感じるのは、非常に穏やかなことです。
初代の「翔べ!ガンダム」のようなヒーローソングではありません。
「哀 戦士」のような歌謡ロックでもない。
「BEYOND THE TIME」のような電子的SFサウンドでもありません。
むしろ、当時のテレビやラジオから流れてきても不思議ではない、非常に完成度の高いポップ・バラードです。
ここが重要です。
ガンダムという作品を知らなくても、一曲のJ-POPとして成立している。
これまでのシリーズでもその傾向はありました。
しかしF91では、それがかなり強くなっています。
「風」と「光」が作る90年代への入口
「ETERNAL WIND」というタイトルも印象的です。
永遠の風。
そこに「ほほえみは光る風の中」という言葉が重なります。
F91という作品は、戦争や宇宙、モビルスーツという巨大なSF世界を描いています。
ところが、楽曲が使うイメージは非常に柔らかい。
風。光。ほほえみ。記憶。出会い。別れ。
これらはSFそのものを説明する言葉ではありません。
むしろ、その世界の中で生きる人間の感情を表現しています。
『0080』の「遠い記憶」から続いていたこの方向性が、F91ではさらに洗練されたと感じられます。
戦争ではなく「人」を歌う
これまでのガンダム主題歌を振り返ると、戦争を表現する方法も変わってきました。
初代では、**「戦うガンダム」**が前面に出ていました。
劇場版では、**「戦場で生きる人間」**が描かれます。
『逆襲のシャア』では、**「人類の未来」**へとテーマが広がりました。
そして『0080』では、**「戦争を経験した人間の記憶」**が中心になります。
F91の「ETERNAL WIND」は、さらにその先へ進みます。
そこにあるのは、
誰かを想うこと。
別れ。
記憶。
そして未来への希望。
戦争そのものではなく、戦争の中でも失われない人間性を歌っているように聞こえます。
「君を見つめて」という、もう一つのF91
F91には、もう一つ重要な楽曲があります。
それが「君を見つめて -The time I’m seeing you-」です。
こちらも歌うのは森口博子。
「ETERNAL WIND」とはまた違い、より80年代後半のロックやポップスを感じさせる楽曲です。
この曲は、もともとF91のテーマ曲として予定されていました。
しかし最終的には「ETERNAL WIND」がテーマ曲となり、「君を見つめて」はイメージソングという位置づけになりました。
ここが面白いところです。
「君を見つめて」は、より80年代後半のロック/ポップスを感じさせる一曲。
一方の「ETERNAL WIND」は、より柔らかく、メロディを大切にしたポップ・バラード。
つまりF91の音楽そのものが、80年代から90年代への過渡期を象徴しているとも考えられます。
80年代最後のガンダム、90年代最初のガンダム
F91が面白いのは、その立ち位置です。
公開は1991年。
時代としては完全に90年代。
しかし、そこにはまだ80年代の音楽的な空気が残っています。
「君を見つめて」に感じられるロックやシンセサウンド。
そして「ETERNAL WIND」に感じられる、80年代ニューミュージックから90年代J-POPへ続くメロディ。
だからF91の音楽を聴いていると、「時代が変わる瞬間」を感じます。
「ETERNAL WIND」と映画のエンディング
そして、この曲が最も強く輝くのがエンディングです。
激しい戦闘。
モビルスーツ同士の戦い。
宇宙を舞台にした巨大な戦争。
その物語を見届けた最後に流れるのが、穏やかな女性ボーカル。
このコントラストが非常に美しい。
戦闘の熱量をそのまま引き継ぐのではなく、観客を現実へゆっくり戻していく。
そして残るのは、戦争の勝敗ではなく、「この人たちはこれからどう生きていくのだろう」という感覚です。
だから「ETERNAL WIND」は、F91のエンディングに非常によく合っています。
ガンダムソングが「普通の名曲」になる
ここまでシリーズを追ってくると、ひとつの大きな変化が見えてきます。
初代の「翔べ!ガンダム」は、誰が聴いてもアニメソングだと分かります。
しかしF91の「ETERNAL WIND」は違います。
ガンダムを知らない人が聴いても、**「90年代の良質な女性ボーカル・ポップス」**として成立します。
これは実は非常に大きな変化です。
「アニメのために作られた歌」から、「作品を離れても一曲の音楽として残る歌」へ。
ガンダムソングの可能性が、さらに広がった瞬間でした。
「ETERNAL WIND」が残したもの
「ETERNAL WIND」は森口博子の代表曲の一つとなり、1991年のNHK紅白歌合戦への初出場にもつながりました。
そして現在でも、ガンダムを代表する楽曲の一つとして歌い継がれています。
1991年の公開から30年以上。
それだけの時間を越えても楽曲が成立するのは、この曲が「F91のためだけの歌」ではなく、一つの普遍的なポップソングとして完成していたからなのかもしれません。
F91の音楽をジャンルで整理する
| 楽曲 | 歌 | 音楽的な特徴 |
|---|---|---|
| ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ | 森口博子 | J-POP / ポップ・バラード / ニューミュージック |
| 君を見つめて -The time I’m seeing you- | 森口博子 | 80年代ポップロック / シンセポップ |
もちろん、ジャンルはあくまで便宜的な分類です。
むしろF91の面白さは、80年代の音楽と90年代J-POPの境界にあることにあります。
初代からF91へ。12年の音楽史
ここまでのシリーズを並べてみましょう。
| 作品 | 年 | 音楽的な特徴 |
|---|---|---|
| 機動戦士ガンダム | 1979 | アニメソング / 歌謡曲 / ロック |
| 機動戦士Ζガンダム | 1985 | 80年代ポップス / 洋楽 / シンセ |
| 機動戦士ガンダムΖΖ | 1986 | 80年代J-POP / ポップロック |
| 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア | 1988 | シンセポップ / ニューウェーブ |
| 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 | 1989 | ポップス / バラード |
| 機動戦士ガンダムF91 | 1991 | J-POP / ポップ・バラード |
1979年の「翔べ!ガンダム」から12年。
ガンダムの主題歌は、ここまで変化しました。
そして次の時代には、さらに大きな変化が待っています。
ガンダムソングは90年代へ
F91の「ETERNAL WIND」は、ガンダムソングが90年代へ入っていくための、美しい橋渡しになりました。
80年代の華やかな電子音。
ニューミュージック。
ロック。
そして、90年代へ向かうJ-POP。
それらが一つの楽曲の中に共存しています。
ガンダムは、時代が変わるたびに音楽も変えてきました。
そして次回、その変化はさらに大きくなります。
次回予告|機動戦士ガンダム 第08MS小隊
1996年。
宇宙世紀の物語は、再び一年戦争へ戻ります。
『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』。
ここで登場するのは、これまでのシリーズとはまた違った音楽です。
主題歌は米倉千尋。
そしてエンディングテーマは、森口博子が歌う「10 YEARS AFTER」。
F91で90年代へ踏み出したガンダムソングは、いよいよ90年代J-POPの時代へ。
次回は『第08MS小隊』を取り上げ、90年代ガンダムソングの始まりを紐解きます。

